NHK BS ジョン・レノンの魂 ~アーティストへの脱皮 苦悩の時代

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 平成22年6月12日午後8時にNHK BSハイビジョンで、John Lennonを題材にしたドキュメンタリー風の再現ドラマが放送された。
 内容はBeatleとしてのオフィシャル(公)の部分ではなく、John Winston Lennonとしてのプライベート(私)の部分についてであり、一部創作を含むものの事実を基に製作されたそうだ。

 物語は64年4月の映画A Hard Day's Nightの撮影中にBrian Epsteinの事務所で、父親Alfred "Alf" Lennonと再会する場面から始まる。
 Johnは握手にも応じず、 "What do you want?" (何が目的だ!)と言って、まともな話もせずに離席したのは本当のようだ。

 このフレッドとかアルフと呼ばれる父親は、船乗りでJohnを捨てたと言う事で評判が悪いのだが、劇中の「ジョン、お前が母さんを選んだんだ。」の発言は本当のようだ。
 母親のJulia Stanleyが58年7月ジョンが17歳の時に亡くなっているので、父親の一方的な発言になるのだが、
 フレッドの航海中にジュリアは浮気のうえ妊娠してしまい、(フレッドはお腹の子を含めて3人の面倒を見ると申し出たが)、ジュリアは浮気相手を選んだ。
注:( )内は一方的言い分。
 ジュリアは姉Mary Elizabeth "Mimi" Smithの勧めでジョンを預かってもらうこととした。

 46年7月フレッドはジョンをニュージーランドに連れて行こうとし、保養地Blackpoolへの休暇と偽って連れ出した。
 不審に思って後をつけたジュリア達に発覚し、双方がジョンの養育権を主張したが、残酷なことに6歳の子供にどちらを取るか選択させた。
 ジョンは最初フレッドを選んだが、去ってゆく母を見て母を選び、「父さん、一緒に行こうよ!」と駅まで歩く間ずっと後ろを振り返っていたが、父はそのまま立ち去った。(子供には残酷だが、夫婦の関係は既に終わっていたので、当然の結末となった。)

 ところが、ジュリアは姉のミミに再度ジョンを預けてしまう。
 母を選んだジョンにとってはたまったものではない、いかなる理由があるにせよ、自分は捨てられたと思っても仕方がない。
 結局、ジョンは父と母を失うことになる。
 この幼児期の悲劇はトラウマとして、潜在意識下でジョンの人格形成に深く影響を及ぼすのだが、当のジョンは長い間意識していなかったようだ。

 この出来事は劇中で何回も回想されるのだが、後半のPrimal Scream療法の場面でジョンはこのトラウマと初めて対峙することとなる。
 この過去の悲しい体験を泣き叫びながら吐露する療法を通して、潜在意識下で自分を操っていた呪縛から解放されたのである。

 話をドラマの最初に戻そう。
 とかく最近では聖人のように語られるジョンだが、ブライアンをホモ・セクシャルとして辛らつに扱う場面。
 あれ、結構キツイよね。
 優秀なビジネスマンだが、ユダヤ人でゲイだったブライアン。
 短い時間で表現したため、言い過ぎなくらいデフォルメされていた。
 でも、皮肉屋で歯に衣着せぬジョンの格好の「おちょくり対象」だったのは確か。
 ただ、ジョンにとってはリンゴの「鼻が大きい」、「背が低い」と同じぐらいの挨拶がわりの一発と言うところか…。
 いじめられっ子の気持ちは不思議なくらいいじめっ子にはわからないものだ。

 こういう自分の「気に入らない者」や「敵と認識した者」へのジョンの攻撃性は顕著だった。
 幼少期からの「孤独」や「満たされないことへの不満」も影響していたと思う。
 仲間とはベッタリでも、それ以外の者との関わりが上手でない。(若者にはよくあることなのだが…)
 そんなジョンの一端を垣間見せてくれるのが、アビー・ロード・スタジオのエンジニアで中期Beatlesの録音に多数関わったGeoff Emerickのこの本。  

ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 <新装版>
白夜書房
ジェフ・エメリック

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 ↑録音の裏話が中心の第1級資料だが、メンバー4人の言動や性格についても言及している。
 どうも、ジョンには冷たくされたようであり、結構イヤな奴として描いている。
 恐らく、一目置かれたGeorge Martin以外、大学卒の白衣を着たエンジニアなんてのは、それだけでジョンには鼻に付く存在だったのだろう。
 気を遣う対象のはずがなく、ひょっとして犬・猫同然の扱いだったかもね。
 たぶん、強烈な個性や魅力ある才能がなければ、この時期のジョンとうまくやれる人は少なかったと思う。
 普通の人(凡人)は言うに及ばず、既成概念的な知識しかなく、そのうえプライドが高い人(インテリ)にはもっと耐えられなかっただろうね。

 そう言う意味で最も犠牲になったのは家族だ。
 ジョンとCynthia Pawellは62年8月に結婚し、63年4月にJulianが生まれる。
 ジョンは次第に家族を顧みなくなり、夫婦の溝は深まって行くのだが、シンシアがジョンに無理難題を要求していた訳ではなく、現在でも通じる普通のことであった。
 お願いしているのは「友人(Peter Shotton)を居候させるのは止めてくれない?」(親とも同居しないのに、なぜ友達がいるの?)とか、「3人でヴァカンスに行きましょ?」とかである。
 ショーンが生まれてからのハウス・ハズバンド時代のジョンとは別人である。
 はっきり言って夫としても父としても失格である。

ジョン・レノンに恋して
河出書房新社
シンシア レノン

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 ↑シンシアがジョンについて語った第1級資料。
 ジョンが好きだったブリジット・バルドーにちょっと似た美人だ。
 アーティストとして想像を絶するプレッシャーやストレスはあったのだろうが、その影で家族が泣いていたとは…。
 両親と同じような過ちを犯すなんて、ジュリアンが可愛そう過ぎる!
 離婚の話し合いの後、庭でジュリアンが蹴ったボールをジョンが蹴り返さずに、全然違う方向に蹴ったのが象徴的。(恐らくこの場面は創作だと思うけど…)
 この頃のジョンには家族の概念すら存在しなかったのかも知れない。

 アーティストとして葛藤していた最中に、ジョンの心をつかんだのはアーティストのYoko Ono。
 中産階級の一般的な主婦でしかなかったシンシアと違い、東洋の神秘性も兼ね備えた前衛芸術家ヨーコ。
 日本人であるが旧財閥系のご令嬢は、容姿は別として60年代という時代を考慮すればなおさら、一般的な日本人から見ても特異で異質だ。やはり洋子ではなくヨーコと表記するのが適当なのだろう。
 ジョンがその特殊なタレントに惹かれたのも分かる気がする。
 西洋人からすれば、見た目から違うし、その前衛的思想たるやインパクトはかなり強烈だったと思われる。

 ヨーコの64年発表の詩集で、後にジョンの推薦文が加筆されたものが復刻されている。

Grapefruit: A Book of Instructions and Drawings by Yoko Ono
Simon & Schuster
Yoko Ono

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 ↑"Burn this book after you've read it." -- Yoko
 「この本を燃やしなさい、読み終えたら。」ヨーコ
 刹那的と言うかスパイ大作戦的と言うか…。
 やっぱ、スゴイわ!

 その後2人は前衛アルバムを3枚発表している。

Unfinished Music, No. 1: Two Virgins
Video Arts
1997-06-03
John Lennon & Yoko Ono


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 ↑写真は裏ジャケット。
 シンシアと離婚が成立した3週間後の68年11月28日発売。
 アヴァン・ギャルド(Avant-garde)と呼ばれる前衛的で実験的なジャンルに属し、一般的なリスナーにはオススメ出来ないが、日記のような資料的価値や歴史的価値はあると思う。
 そう言う私も3枚組のボックスを持っているが、1回しか聴いたことがない。(マニアに叱られるかな?)
 とかく悪者呼ばわりされているヨーコだけど、ヨーコを求めたのはジョンだし、あれこれ決断したのもジョン自身だし、それが悪い結果をもたらしたのなら、それらは全てジョンの責任だよ。
 ヨーコのせいにするのは、ジョンを子ども扱いするのと同じだよね。

 ドラマは実質的なソロ・アルバムに当たるこれを発表し、渡米するところで終わっている。

ジョンの魂 ~ミレニアム・エディション~
EMIミュージック・ジャパン
2000-10-09
ジョン・レノン

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 特に答えが用意されている訳でもなかった。
 ただし、家族や友人や関係者を思いっきり振り回し、迷惑をかけ、不快な思いをさせながらも、アーティストとしてさ迷い、もがき続け、イラつきながらも何かを捜し求めていたことは良く分かった。

 Beatleとしての輝かしいオフィシャル面を考慮せず、プライベートな面だけを見ると、自分勝手でイヤな奴と勘違いしそうだ。
 でも、みんなオフィシャル面は十分良く知っているだろうから、生身のジョンを取り扱ったという点で、ジョンをより深く理解するうえで評価できると思う。
 近年、まるで聖人のように扱われ、「正座して聴け、ジョン・レノン!」みたいな風潮になってきたことに、危機感を持っていたのでちょうど良かったと思う。

 最後にドラマ中で明らかな間違いがあり、The Beatlesは66年8月29日の米国サンフランシスコのCandlestick Parkでラスト・コンサートを行っており、67年でコンサートのコメントがあったのはおかしい。

 それにしても子供の頃のジョンも可愛そうだったけど、ジュリアンも可愛そうだった。
 どんな大人に育ったのだろう?
 
Valotte
Virgin Vip
2009-02-03
Julian Lennon

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